「私しか出来ないこと」を、今日も探して
聞き方が変わると、任せられるようになる。
同行訪問や電話相談で看護師を支えるスーパーバイザー。管理の仕事を任されてすぐに受けた問いをきっかけに、自分の聞き方と関わり方を見直してきた手記です。
- 名前
- Yoshie Tsujikawa
- プロフィール
- トータルケアのスーパーバイザー看護師。看護師の教育に携わり、同行訪問と看護相談ダイヤルで現場の看護師を支える。直営のステーションで地域交流会も定期開催。
手記
スーパーバイザー看護師
「辻川さんしか出来ない仕事は、この中でどれですか」
管理の仕事を任されてすぐのこと。コーチングの先生からこう聞かれました。「辻川さんしか出来ない仕事は、この中でどれですか」。その質問は、私のものの見方や考え方を変えるきっかけになった言葉でした。
そこで、私は自分がやっていることをリーダーに説明することにしました。その説明をしながら、そして聞いてもらいながら、気づくのです。看護師が困らずステーションが円滑に回る、その一点に私は日々の時間を費やしていたのだと。その場その場の問題を片付けることに終始していたのです。つまり私だけがやる仕事がなかったということ、その中で気づきました。
相手の声を聞く前に、結論を与えてしまう
そこからの変化は、意識的な転換でした。相手を信頼する。相手の判断に任せる。そして、相手の思考プロセスを聞く。しかし、ここで新しい課題が浮かび上がりました。私の基本的な性質は「気遣い型」です。コーチングの先生がそう教えてくれました。その気遣いは、相手が発しようとしている言葉を、自分が先に言ってしまう癖です。相手の心情を読み取ろうとするあまり、相手の声を聞く前に結論を与えてしまうのです。
そうなると、相手に残されるのは「他人に決められた」という気持ちだけ。本当の会話、コミュニケーションが成立していなかったのです。コーチングの先生はいつも同じことを問いかけてくれます。「どうしてそう思うのか。どの部分でそう思うのか。それを聞いていないのではないか」
思っていることと、言葉にできることは、別の問題
この気づきから、私は新しいチャレンジを始めました。会話のゴールを意識すること。その過程で、相手の話を聞きながら、自分の思考の課題が浮かび上がることがあります。そこに気づかせてくれたのが、コーチングでした。先生は何度も私に言います。「抽象的すぎる」「解像度を上げて」「整合性が取れていない」と。その指摘を受けるたびに、自分の思考の輪郭のなさが可視化されるのです。思っていることと、それを言葉にできることは、まったく別の問題であることに気づかされるのです。
その過程で気づいたのは、相手の話を聞く中で、自分がどう変わったかということです。相手の話から本質を引き出そうとする中で、自分にまだ何が不足しているかが見える。その気づきこそが、自分の聞き方が変わってきたからこそ見えるようになった、ということであり、それが自分の成長の証なのだと思います。今、私が力を入れているのは、自分の気持ちや考えを観察することです。内省を深める作業です。これは大変で、時には苦しいものですが、同時に、この上なく面白い。
私の心の中はカラフルです
この仕事をしていて、とにかくいろいろな「人」に出会えることは、私の人生にたくさんの色を与えてくれます。だから私の心の中はカラフルです。とにかくおもしろい。子育ては彩り豊かな人生を私に与えてくれ、仕事はたくさんの出会いで色とりどりのカラーで溢れている。今日どんな色の人と話すのか、色は変わったのか。決めつけで思い込んでいた色の人がいたことにも気付くことがある。でもそこでも先ほどの「聞く力」が発揮されます。相手の話に耳を傾け、相手がどんな思考プロセスの中にいるのかを理解しようとすることで、どう関わるべきかが見えてくるのです。
そして、心がけているのは「自分の働きかけを設計する」ことです。もちろん発展途上の私は試行錯誤の連続です。コーチングの先生に相談し、上司に相談して、進む方向を確認しています。完成形ではなく、この過程そのものが大切だと信じています。
「私しか出来ないこと」を、今日も探して
今、直営では地域交流会を定期的に行っています。在宅に関わる皆さんの力をお借りして、私たちの地域の方々がどうやって在宅生活を送るのか。そこにトータルケアとして何ができるか。「どのステージの人でも家に帰れる」ことは、私が教育に携わってから、看護師たちに何度も教え伝えてきたことです。何もないところから、どう頭を捻って在宅生活が継続できるかを考える。現場の看護師ができることは何か。そして私ができることは何か。
私が「現場の看護師が困らないように」奮闘していたことは、現場の看護師に全て渡し任せています。とても頼もしいです。あの日受けた「辻川さんしか出来ない仕事は、この中でどれですか」という問いを胸に、「私しか出来ないこと」を今日も探して、毎日頑張っています。
辻川からのメッセージ
未来の看護師たちへ
忘れられない、お庭での撮影会
トータルケアに来てから忘れられない患者さんがいます。がん末期の40代女性。3人のお子さんがいました。ご家族全員がお母さんの予後を知っていました。遠方で寮生活をしていたお子さんたちも帰省され、家族全員が揃った日の出来事です。
その日、彼女の体調が良かった。お子さんたちも笑顔でした。「写真が撮りたい」。じゃあ撮ろう。広い庭に車椅子で出ました。ご主人がどこから持ってきたのか、レフ板で彼女の顔を照らす。「お父さん何してんの」と、お子さんと彼女が大笑いする。その時間、その笑顔。私はたくさんの写真を撮りました。その撮影会の後間もなくして彼女は自宅で家族に見守られて亡くなりました。
あれが翌日だったら、あんな大笑いした写真は撮れなかったでしょう。真っ白い顔をして、酸素もしていました。でも在宅では「してはいけないこと」はない。制約や規制はない。お子さんたちはお母さんと、ご主人は妻と、彼女は緑豊かなお庭でいつもお世話していた花や野菜を手で触り、日常を過ごすことができました。家族全員が、その短い時間を共にすることができたのです。
「今日」が、一番良い状態
「この状態で外なんか出られるわけがない」と患者もそのうち「無理だよね」と諦めてしまう。トータルケアでは「この状態」は「今日が一番良い状態」と考えます。人生の期限が決まっている人の「今日」はとても大事な「今日」です。その大事な「今日」で、彼女はご家族と過ごすことができたのです。
「もう少し良くなったらね」という言葉を、病棟で言ったり聞いたりした経験はありませんか。そんな日は来ないことはわかっているのに、『あなたには時間がない』ということを『言ってはいけない』『なんて言ったらいいかわからない』といった理由からその言葉を使う。病院には「治療をする」という大きな役割があります。病院ももちろん選択肢の一つです。しかし、その選択をせずに自宅に戻ってきた時、「してはいけないこと」は何もありません。たとえがん末期であろうと、その人がそこにいることは日常。人生が終わるまでの期間が短いことがわかっているのに、制約のある生活は何の意味もありません。
かくいう私も、がん末期の患者さんを外に出し、写真を撮ってもいいのか、自信がありませんでした。私も病棟で「もう少し良くなったらね」と言っていた一人だったからです。でも相談ダイヤルで「希望を叶えてあげて」の一言。その言葉で私も一歩が踏み出せました。「持ち帰って相談します」なんて言っていたら、あの時間は持てなかったのです。
「看護」って「誰のため」?
ご縁があって出会った患者さんの最期までの時間を「どう生きたいか」を、どのステージの人でも自宅で叶えられる。私がトータルケアにいてこれに関われることは、とてもやりがいを感じられる部分です。今これを読んでいるあなたは、少なくとも「病院じゃなかったらどうなんだろう?」と思っている方だと思います。目の前の患者が自分だったら。もうすぐ何もできなくなるのに、まだ今ならできるのに何かの制約を受けたら。「看護」って「誰のため」?「私」は「誰のため」に「看護」をしているのだろう?その問いの答えは日々の仕事の中にたくさんある。トータルケアはその「誰のための看護なのか」を忘れないステーションです。その問いに真摯に向き合うために、『相談ダイヤル』というシステムがあります。そこは看護師の日々の疑問、看護の話、嬉しかったことやうまくいかなかったことなど、いつでも話せる場所です。
「どうしたいんだろう私は」からのスタート
勤務体系も魅力的です。「自分で決めていい」と白紙のスケジュールを渡された(当時は紙だった)時は、「ええと、何時に来たらいいですか?」と質問し「好きな時間に来て」「・・・」自分の働き方さえ自分で何にも浮かんでこない。「どうしたいんだろう私は」からのスタートでした。やりたいことは諦めなくていい、できたかできなかったは、やったかやらなかったかの結果でしかないんです。
どの道を選ぶかより、選んだ道をどう生きるのかの方が大事。トータルケアでは「看護師の私」と「そうじゃない私」をどちらも諦めなくてもいい場所です。
ぜひ一歩踏み出してみてください。
コーチング研修について
まず、自分自身と向き合うところから
この手記に出てくるコーチングは、小手指・入間・ふじみ野・津田沼・練馬の直営ステーションが研修システムとして取り入れているものです。個人セッションに加え、グループセッションではリーダーたちが自己課題について話し合います。
現場の看護師を支える人がいる職場を探しているあなたへ
働き方のこと、研修のこと、独り立ちまでの流れのこと。気になることは、カジュアル面談で何でもご質問ください。履歴書は不要。対面・WEB・電話・LINEからお選びいただけます。