その人が大切にしてきた生活を、知ることから
トータルケアスタッフインタビュー【看護師/練馬ステーション】
練馬ステーションの Sui Yano に、訪問看護で大切にしていることを聞きました。以下は本人の言葉をそのまま掲載しています。
- 名前
- Sui Yano
- 所属
- トータルケア練馬
- プロフィール
- トータルケア練馬の看護師。病気や障害だけでなく、その方がこれまでどう暮らし、これからどう暮らしていきたいのかを考えることを大切にしている。
私が訪問看護で大切にしていること
トータルケア練馬 看護師 Sui Yano
私が訪問看護で大切にしているのは、病気や障害だけを見るのではなく、その方がこれまでどのように暮らしてきたのか、そしてこれからどのように暮らしていきたいのかを考えることです。
そう思うようになったきっかけの一つが、訪問看護を始めたばかりの頃に担当した、末期がんの患者さんとの出会いでした。
その方は、部屋に置いてある物の位置を少しでも変えると、とても強く怒る方でした。部屋は決して広くなく、物も多く、私から見ると動線も良いとは言えませんでした。当時の私はまだ訪問看護の経験も浅く、「もう少し整理した方が生活しやすいのではないか」「少しくらい場所を変えても、そこまで怒らなくてもいいのに」と考えていました。一緒に訪問していたヘルパーさんと、そんな話をしたことも覚えています。
しかし、何度か訪問し、その方と関わっていく中で、その理由を知りました。その方には、目がよく見える時間と、ほとんど見えない時間があったのです。
目が見えない時でも生活できるように、自分の手を伸ばせば必要な物がいつもの場所にある。どこに何があるのかを身体で覚え、自分一人でもできることを少しでも残しておく。そのために、一つひとつの物の場所には、その方なりの意味がありました。
私たちから見れば一見ごちゃごちゃしていて、もっと効率よくできるように見える環境も、その方にとっては、自分で暮らしていくために作り上げた大切な生活の形だったのだと、その時初めて気付きました。
「なぜこの人はこうしているのだろう」
病院では、安全性や効率、治療のために環境を整えることが必要な場面が多くあります。しかし訪問看護で私たちがお邪魔するのは、病室ではなく、その方の「家」です。そこには、その人が長い時間をかけて作ってきた生活のリズムがあり、ご家族との関係があり、大切にしている習慣や、その人なりの工夫があります。
医療的に正しいことが、必ずしもその方にとって一番良いこととは限りません。もちろん必要な医療やケアを提供することは看護師として重要ですが、まず「なぜこの人はこうしているのだろう」と考え、その方を知ろうとすることが、訪問看護ではとても大切だと感じています。
「この方は今、何を求めているのだろう」
一方で、私自身、いつも相手のことを十分に理解して関われているわけではありません。
最近、看護相談ダイヤルで人との関わり方について話をする機会がありました。私はもともと、自分の内面を人に見せることがあまり得意ではありません。そんな話をした時に、「すべての自分をそのまま出す必要はなく、相手が求めている自分を出すことも一つの関わり方なのではないか」と言われ、はっとしました。
訪問看護の中でも、不安の強いご家族が、感情のままに気持ちを吐き出される場面があります。強い言葉を向けられると、私自身が身構えてしまい、「自分に対して怒っているのではないか」と受け取ってしまいそうになることもあります。
けれど、その時の言葉を通して考えてみると、その方は私を責めたいわけではなく、どうしようもない不安や苦しさを、誰かに受け止めてもらいたいだけなのかもしれないと思うようになりました。
振り返れば、これまでも患者さんによって、話し方や距離の取り方を無意識に変えていた部分はあったと思います。たくさん話したい方には耳を傾け、不安の強い方には安心してもらえるように話し、必要以上に踏み込まれたくない方には少し距離を取る。それをこれまでは感覚的に行っていました。
けれど、これからはもう少し意識して、「この方は今、何を求めているのだろう」「私はどのように関われば、この方が安心できるのだろう」と考えていきたいと思っています。
「家で暮らしたい」という思いを、諦めなくて済むように
これまでさまざまな方のご自宅に訪問してきましたが、同じ疾患や同じ医療処置が必要であっても、生活環境も、困っていることも、大切にしていることも、一人ひとり違います。そして、その方が看護師に求めるものも、一人ひとり違います。
訪問看護を始めた頃と比べると、「正しいことをする」だけではなく、その方の生活や背景、言葉の奥にある気持ちまで考えようとするようになったことは、自分自身が少しずつ成長してきた部分なのだと思います。それでも、迷うことやうまく関われないことはあります。だからこそ、一つひとつの訪問の中で、自分自身も学び続けていきたいと思っています。
医療が必要になっても、できる限り好きな場所で、自分らしい生活を続けてほしい。「家で暮らしたい」という思いを、病気や障害があるからという理由だけで諦めなくて済むように。
その人が大切にしてきた生活を知り、その方に合った距離で関わりながら、安心して地域で暮らし続けられるよう支えていくこと。それが、私が訪問看護をするうえで大切にしている想いです。